世界貿易機関(WTO)
新型コロナウイルスと電子商取引に関するWTO報告書
令和2年5月11日
5月4日,世界貿易機関(WTO)事務局は,新型コロナウイルスと電子商取引に関し,「電子商取引,貿易及びCOVID-19パンデミック」と題する報告書を発表したところ,その概要は以下のとおりです。なお,報告書の全文はWTOのホームページでご確認頂けます。
- 新型コロナウイルスに対応するための社会的距離やロックダウン等の措置は,オンラインショッピングやソーシャルメディアの利用,インターネット電話や電話会議,ビデオや映画のストリーミングの増大につながり,ビジネスから消費者向け(B2C)の売上が急増し,また,ビジネス間(B2B)の電子商取引も増大している。B2Cの売上の増大は,医療用品,日用品及び食品のオンライン販売において特に顕著となっている。インターネット及びモバイル通信サービスへの需要も増大しており,通信事業者及び政府は,ネットワーク容量及び周波数を,こうしたオンライン活動の増大に早急に適合させる必要性に迫られている。
- 物品及びサービスの貿易に関する電子商取引も需給全体に混乱を生じさせている要因と同じ要因によって悪影響を受けているが,電子商取引特有の問題としては,価格吊り上げ,製品の安全性への懸念,サイバーセキュリティへの懸念,通信帯域幅の増加へのニーズなどが挙げられる。
- 新型コロナウイルスを巡る状況は,国内及び国と国の間におけるデジタルディバイド(情報格差)を解消する必要性を強調している。多くの伝統的な障壁は,開発途上国,特に後発開発途上国(LDC)における小規模な生産者,販売者及び消費者による電子商取引の活動への積極的な参加を妨げてきた。このことは,効率的かつ手頃な情報通信(ICT)サービス(電気通信サービス,コンピュータ・IT関連サービス,新技術サービス等)の必要性を強調するものとなっている。
- 新型コロナウイルスとの闘いにおいて直面する課題に対処し,電子商取引を課題の解決に役立てるため,政府は新たな措置を採用し,民間セクターも各種取組を行っている。その中には,ネットワーク容量の拡大,少額又は無償でのデータサービスの拡張,電子決済及びモバイル電子送金の取引手数料の低減又は廃止,配送サービスやその他のロジスティクスサービスの改善,措置の実施及び情報の拡散のためのデジタルツールの利用,遠隔医療の促進が含まれる。
- 新型コロナウイルスの性質とその電子商取引への影響は,オンラインでの購入及び供給に関する国際的な協力の強化及び政策の一層の発展を促すであろう。新型コロナウイルスにより,電子商取引が消費者にとっての重要な手段/解決策であることが明確になっている。電子商取引は,小規模ビジネスも支援するものであり,また,経済を一層競争的なものとすることで,国内成長と国際貿易双方を牽引するものである。
- 新型コロナウイルスにより,デジタル技術の全般的な重要性が強調されている一方で,その脆弱性も世界的に明らかになっている。新型コロナウイルスから得た経験や教訓をWTOにおける電子商取引に関する議論(電子商取引作業計画,電子商取引共同声明イニシアティブ)において検討することは有益であり,新型コロナウイルスがもたらした課題や恩恵は,電子商取引に関するグローバルな協力を一層進展させるインセンティブとなりうる。新型コロナウイルスの経験や教訓は,貿易円滑化協定や衛生植物検疫措置の適用に関する協定(SPS)/貿易の技術的障害に関する協定(TBT)といったWTOにおける他の議論とも関連している。国境を超えた物品及びサービスの移転を促進し,デジタルディバイドを縮小し,また,中小・零細企業のための競争条件の平準化を図るための一層の国際的な協力に目を向けることで,これらのWTOにおける議論を進展させることができる。